8トラック・テープについて紹介しましょう
8トラといえば、かつてカー・オーディオやカラオケ用のミュージック・テープとして一世を風靡したフォーマットです。
オーディオ用としてよりも、その操作の簡便性や特徴により、業務用などヘビーデューティーな使い方をされていました。
テープ・メディアの中でもオープン・リール・テープの対極に位置するイージー・オペレーションの固まりが、この8trテープの最大の特徴でしょう。テープの最初と最後をエンドレス・ループにつないであるため、巻き戻しもいらず、デッキに挿入するだけで自動的に再生する機構は、自動車運転時の操作が簡単とあって世界中に広がりましたが、日本ではさらにカラオケ・テープとしても活躍しました(詳しくはここを参照)。カセット・テープが録音再生機として活躍したのとは対照的で、再生専用のミュージックテープに特化していました。もちろん録音再生機も販売されていましたが、個人的には8trの生ブランクテープは見たことがありません。
1970年代の後半になると完全にそのポジションをカセット・テープに奪われました。それでも海外のオークション、例えばeBayなどで探すと、結構な種類の音源が見つかります。しかも通常のステレオ版のみならず4チャンネル・Quad仕様のものも数多いです。有名なのはPink Floydの「The Dark Side Of The Moon」で、今から思えば70年代中頃にはすでに自家用車内でサラウンドの音音楽を聴きながらをドライブするなんて贅沢なことを欧米ではやっていたわけです。
(写真左は愛用の4chアンプ内蔵・据え置きデッキです)
▼1. CAPRICORNレーベルの一番最初の8トラック・テープ…L 8802 (USA)
未開封・未使用状態で入手した通常盤の1stです。
カタログナンバーがL 8802ということからも分かるように、ピンク盤と同時期に発売されたものでしょう(Reel To ReelはL 802でした)。カセットテープの初盤L 5802と同様にAtcoから出されたもので、外箱の表示から分かる通りAmpexで製造されています。またカートリッジのラベル写真にもPink盤のジャケット同じように、ディッキーの足下にステンシルのCAPRICORNロゴが入っています。
箱の裏面には曲目等のクレジットが有るだけですが、曲順は8trテープならではの制約、つまり4つのプログラムが1本のテープに平行して録音されているため、各プログラムの時間が均等になるように工夫されています。
ちなみにこのテープの曲順がこれ以降もずっと使われています。せっかくの"Whipping Post"が二つのプログラムに分断されているのが残念です。
ビックリ! 迫力の高音質です。まいったなあ…。
正直言ってあまり期待していなかったんですよ。カセットテープの初版(これも未使用・未開封の物)の音が今イチだったので、まあ似たようなものではなかろうかと。ところが、出てきた音にちょっとビックリ! なるほど、8trテープがミュージック・テープとして君臨した理由が分かる気がします。単に扱いが簡単だっただけでなく、それなりの音質を持っていたわけです。
だからそれだけに"Whipping Post"が泣き別れになっているのがもったいないです。
もう一つの驚きは、セットテープの初盤L 5802のところでも述べたように、1曲目のSTATESBORO BLUESのエンディングがフェイドアウトせずにTROUBLE NO MOREが始まり、すぐにフェイドアウトします。ちなみにこれは後年「The Fillmore Concerts」として再編集して世に出るまで知られないことでしたが、テープを聴いていた人には当時から知られるところだったということですね。
ちなみに上記のことを考える合わせると、どうも8trとカセットとは同じ音源を使っているようです。というか、8trのほうのが先、カセットがおそらく後でしょう。
▼2. ピンク盤と同じロゴが使われています…CAL 8802 (USA)
ロゴ以外は最初のテープと同じ仕様です。
カタログナンバーはCAL 8802ということで、プリフィックスのCALは他でもよく見られます。最初はCAR STEREO用のL 8808というような意味かと思いましたが、単純に「CARTRIDGE」の「CA」と考えた方が自然ですね。最初期のL 8802にこの「CA」を付け加えたのではないでしょうか。
ところでこのテープではピンク盤のレーベルでおなじみのCAPRICORNのロゴが入っています。こちらも初期の物だと思われます。
▼3. 次のテープはRecord Club of America仕様です…8 802 (USA)
ひと味違うCAPRICORN版です。
カタログナンバーが8-802でおなじみのCAPRICORNのロゴが入っているので、上の初版の流れということが分かります。しかしちょっと詳しく見てみると違いがあります。詳しく見ると下のような表示があります。
「Record Club of America」という文字が読み取れるでしょうか? これはこちらの特集のページでも紹介しましたが、アメリカ国内の通販専用商品として発売された物です。具体的な音質には正規版と差が無いはずですが、残念ながらテープの状態が良くなく、うまく再生できませんでした。
曲順がメチャメチャなのがご愛嬌です。
ちゃんとした音質が判定できないので、視点を変えてこのテープを眺めていると、曲順がでたらめ、表記が適当なことが分かりました。
1…Statesboro Blues / Whipping Post No.2(これ1の間違い)
2…Whipping Post No.2 / Elizabeth Reed(表記原文ママ)
3…Done Somebody Wrong / Stormy Monday / Hot' 'Lanta
4…You Don't Love Me
8trテープのその性格上、一本のテープを4つのプログラムに、しかも均等の時間に納めなければならないという制約上のこととはいえ、こんなにごちゃ混ぜにしなくてもと思うのですが…。
▼4. ワーナー移籍後のロゴが既に使用されていました…CAR TP-2-802 (USA)
黒い外箱はピンク盤と共通イメージです。
このテープにははっきりと「CAR」の表記がありますね。しかもカタログナンバーもTP-2-802ということで、ピンク盤のSD2-802に似ています。
ところで黒い外箱の表側と底面にカプリコーン・レコードのロゴがあるのですが、それがなんと1972年にAtlanticからワーナーに移動してからの物が使われています。ピンク盤そのものは移籍後もAtlanticから73年まで販売されていたので、テープの権利もそのまま引き継がれていたのでしょうか。
カートリッジはピンク盤と同じ色です。
ケースからカートリッジを取り出すと、ピンク盤を連想させるような派手な色が目に飛び込みます。
ところでケースにもカートリッジにも「1841 Broadway New York N.Y.10023」と言う住所表記があります。 実は上書表記のあるテープはこれが最初です。上のワーナー移籍後のロゴと10023という郵便番号表記から考えると時期的には1972以降の物ではないでしょうか。
▼5. 上のTP-2-802と全く同じ仕様ですが、製造がWanerに移った後の物でした…CAR L 8802 (USA)
一見して上と同じ仕様のようですが…。
カートリッジの裏と表で色が違うのは、表側が日に焼けて褪色したからで、実際には上のTP-2-802と同様に派手なピンクだったはずです。ところでカタログナンバーがCAR L 8802ということで、2つめに紹介したCAL 8802の続きのように思われるかもしれませんが、裏面の住所表記を見ると、すでに製造元がAtlanticからWarner Bros.に移っていることが分かります。ということで、時系列で言うとこちらがTP-2-802より後になります。
▼6. 2本組みの4ch Quad仕様テープです。ここから山羊のマークに変わりました…CAP 2X9 0131 (USA)
オープン同様、ごっつい音のするテープです!
ケースに表記されている通り、Quadraphonicのテープです。8trテープですから4trのオープンテープの場合と同様に、一つのプログラムに二つの分のトラックを使用するため、2巻に別れたというわけです。カートリッジのラベルにも1974という製造年が印刷されているので、LPと同時に発売されたことが分かります。
他のQuad仕様の音源同様、"Stormy Monday"はハーモニカ・ソロの入ったノーカットバージョンですし"You Don't Love Me"も3/13(1st Show)の未編集版です。音質そのものはオープンテープに匹敵するごつくて太い音です。なかなか手に入らないテープですが、そしてサラウンド成分に関しては特筆することはありませんが、フロント2chの音だけでも"買い"です。
なぜか微妙に異なる曲順
不思議なことにRecord Club of America版をのぞいて、このテープだけが曲順が違います。
【TAPE-1】
1…Statesboro Blues / Done Somebody Wrong / Stormy
Monday
2…You Don't Love Me
【TAPE-2】
1…Whipping Post
2…Hot' 'Lanta / In Memory Of Elizabeth Reed
つまりちゃんと全曲が複数のトラックにまたがること無く、長尺の曲もちゃんと一曲としてつながっていてめでたしめでたしなのですが、それでいいのならどうして元々の曲順で、"Whipping Post"が最後になるような曲順にしなかったのでしょう?
山羊が左向きです。これまたこの時期の謎です。
LPのQuad盤のところでも紹介しましたが、この時期のCAPRICORNのマークは右向きの山羊が普通です。しかしQuadのLPでもオープンリール版でもこの8trテープ同様に左を向いていますので、Quadとして揃えたのでしょうか?
いずれにせよ、この話はあらためて取り上げるつもりですが、この山羊さんマークはあっちを向いたりこっちを向いたり忙しいことこの上ないのです。ちなみに下のテープでは右を向いています。
▼7. 右向き山羊のマークが使用されています。でも何かが足りない…WB J 0131 (USA)
この時期は山羊が右向きで正常です。
そのカタログナンバーからも分かる通り、製造元がワーナーに移ってからの物です(LPは2CX 0131)。そのためトレードマークの山羊さんも右を向いています(左下の山羊さんは2CX 0131のジャケットのものです)。しかしそんなことはどうでも良くて、問題はカートリッジに貼られた写真です。
どうしてこういうことになるのか理解に苦しみますが、通常ステレオ仕様であるにも関わらず、パッケージに貼られたラベルの写真がQuad LPの物と同様にツアーケースにタイトルのステンシルの文字がありません(この件に関してはFillmore研究室をご覧下さい)。まあ、普通の人にはどうってことの無い、重箱の隅をつつくような話なのですけどね。これから判断するに1974年以降の物ではないでしょうか。
▼8. 味も素っ気も無いカートリッジです。本当は外箱が有るのでしょうが…WB J 0131 (USA)
ただのパッケージ違いでしょう。
カタログナンバーが上の物と全く一緒ですが、カートリッジに貼られたラベルのデザインが違います。上のカートリッジの裏側が表側にきただけで、このカートリッジの裏側にはなにもありません。味も素っ気も無い、といっては言い過ぎでしょうか。ひょっとしたらちゃんとした外箱が元々は有ったのかもしれませんが、残念ながら手許に届いた時にはこの姿でした。それにしてもボロボロ。音もひどかった…。
▼9. 手持ちの中で唯一のUSA以外の8とラ・テープです…A8TJ 802 (CANADA)
恐らくカナダ版の最初期ではないかと…。
LPのカナダ盤の初盤は米国同様Atlanticの傘下から出ましたが、製造はカナダのワーナーされておりカタログナンバーが2SA 802でした。このテープも同様にワーナーで作られていますが、写真にはいつものステンシルのCAPRICORNのロゴ、そしてラベルにはファンのATLANTICロゴがしっかり入っています。ということで、おそらくカナダの最初期の物では無いかと思います。
音については劣化が進んでいて今イチ。
▼10. 山羊さんマーク期のCANADA版が見つかりました…8CPJ 0131 (CANADA)
カナダのCAPRICORN版8trですが…。
右向き山羊さんマークでも分かる通り、ワーナー製造のCAPRICORN レーベル版です。だから2ndであることは間違いないのですが、ピンク盤のプロモや最初期盤のジャケットに貼られていた白いシールが印刷されています(カートリッジのラベル上方を見て下さい)。実はこれはカナダ盤の1st版LPであるAtlantic盤と同様な印刷なのです。本来なら上のAtlantic版であるべきですが、2レーベルの特徴が混在してしまっています。特に理由はないのでしょうが、あいかわらずややこしいことをするものです。
英仏2カ国語表記がお国柄です。
カナダという国の成り立ちと言うかお国柄というか、外箱には英文と仏文の二カ国語で表記しています。8 TRACKをフランス語では「8 PISTES」というのですね。辞書を引くと「スケートのコース」みたいなことが書いてありましたが、文字通りトラックですね。
さてさて肝心の音質ですが、やはり8trテープはパッケージで見ただけでは劣化状況が分かりませんね。残念ながらモコモコで聴けたものではありませんでした。
※8トラック・カートリッジ・テープのまとめのようなもの
もし8トラック・テープを購入するなら(そんな人いるかな?)、できるだけ程度の良い物、できれば新品未開封をお勧めします。
オープン・リール・テープの項目でも述べましたが、CD、SACD、さらにはHDレコーディングが全盛の時代に、それもあえて正統派オーディオ・メディアとしては認知されていない8トラックのミュージック・テープをわざわざこのご時世に購入してみようなんていうのは、余程の物好きとしか言いようが無いでしょう。それでも聴いてみなければ分からないのは、他のテープ・メディアと一緒。だから聴くしか無いのです(笑)。
手許に有る8トラ・テープは9種類の10セットでした(1本ダブり)。結論から言うと、他のメディアと比べて劣化の程度の差が激しかったです。これはカー・オーディオ用として過酷な試聴環境(特に高温)に置かれる運命にあったから、仕方の無いことだと言えるでしょう。ですが、ひとたび程度の良い、新品・未開封・未試聴状態の物になると、俄然本領を発揮します。テープ・メディアって本当に侮れません。
今回、抜群に良い音を聴かせてくれたのは、米初版のL 8802とQuad版のCAP 2X9 0131でした。この二つは良かったー! そしてこの二つこそ、新品・未開封状態でeBay(海外オークション)で入手した物でした。今回この項目で取り上げるにあたって、ちゃんとしたオーティオ・セットにつないでみました。今まではデッキから直接出力していただけだったので、これほどだとは思いませんでした。
残念ながらこのロング試聴レポートを書いているうちに、8トラ・デッキが不調になってしまいました。修理に出さねば! さて、もしも、もしもまかり間違って、8トラのテープを聴いてみようと思ったら、まずは適当なデッキを確保して下さい。ひょっとしたらテープを手に入れるより大変かもしれませんが、ネットの時代ですから何とかなるでしょう。そしてテープはできるだけ状態の良い物を選んで下さい。8トラ・テープはヘビーデューティーな使い方をされる割にデリケートなんです。できれば新品・未開封の物を!