Cassete Tape

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カセットテープについて紹介しましょう

ほんのつい最近まで、そう、CDが出現するまではオーディオでもソフトでもカセットテープは主役でした。

カセットテープには、みんな本当にお世話になったものです。そしてけっこう良い音していたんですよね。

 今でこそCD-Rにその座を奪われた感が有るカセット・テープですが、単に録音再生するための生テープとしてだけでなく、けっこうミュージック・テープとしても流通していました。アメリカは自動車社会ですから、このテープメディアというのは日本以上に流通していて、つい最近まではCDショップにもテープのコーナーが有ったりしたほどです。

 ですから、レコードの裏側にも「カセットも出てるよ、8とラック・テープもあるよ」なんてことが書いてあるわけです。まあ同じことが日本のレコードの帯に印刷されていたりもしました。というわけで、Fillmoreには様々なフォーマットがありますが、カセット・テープもまたいろいろありました。残念ながら手許には少ししか集まりませんでしたが、それでも十分楽しめました。

▼1. CAPRICORNレーベルのおそらく一番最初のカセット…L 5802 (USA)

1stの証はカタログNo.と何と言ってもAtcoの印

 
ジャケット.jpg おそらくこれがカセット・テープで発売されたFillmoreの最初ではないかと思っています。その理由は何かというと、カタログナンバーがL 5802となっているところにあります。LPのカタログナンバーがSD-2 802ということからも自明のことだと思います。そんなこと言わなくってもどこから配給されているかを調べれば分かるだろうって? その通り。実はこのテープはAtcoから出ているんですね。よく見るとこんなことがパッケージに印刷されています。
A Product of Capricorn Records Distributed By Atco Records
IMG_2398.JPG ということは1971年の発売ということになります。ピンク盤でもほどなくAtcoの文字は消えて、Atranticだけになっていますから。
 ところでこのカセットはクラムシェル型の一体成形ケースに入っていてカッコいいです。ケースの写真にもPink盤と同じようにCAPRICORNのロゴが入っています。

肝心の音源について解説しましょう

 
カセット.jpg オープンテープでもおなじみのAMPEXのテープというところがマニアには泣かせてくれるのですが、実際の音質はどうなのでしょう。SIDE1は本来レコードではSide3の一曲目のHOT'LANTAまで収録されています。
 このテープはまだドルビーのエンコードがされていないので、試聴するとやはりヒスノイズは少なからずします。
 肝心の音についてなのですが、ジェネレーションが若いので良い音をするのかなと期待していたのですが、まずまずという感じ。中高音はいいのですが、低音が今一でした。それでもどっこい、テープの良さはしっかりありました。

大発見がありました!

 
  しかし大きな収穫が有りました。というのは1曲目のSTATESBORO BLUESのエンディングがフェイドアウトするかと思いきや、TROUBLE NO MOREが始まるではないですか! もちろんすぐにフェイドアウトするのですが、これは後年「The Fillmore Concerts」として再編集して世に出るまで知られないことでした。そしてこれはピンク盤とはマスターが異なるということを意味します。ここにもFillmoreの謎が隠れていましたね!

▼1の補足. L 5802 (USA)のカーステ版を発見しました(2009.1.12追加)

これは珍しいカーステレオ専用テープです。

 
全体1.jpg カタログナンバーはL5802となっているのですが、上で紹介したものと違うのは、そのカタログナンバーの前に「CAR」の文字が見えることです。どうやらカーステレオ仕様のものらしいことが分かりますが、カーステレオ仕様と普通のものとの違いって何でしょうか? その前にこのテープの氏素性を見てみましょう。
ケース3.jpg A Product of Capricorn Records Distributed By Atco Records 
 とケース裏側の左上・隅に印刷してあります。しかしその対角線上、右下・隅にはこんなことが書いてあります。Dist. by Atlantic Recording Corp., 1841 Broadway N.Y.,N.Y.10023 
 10023というのは郵便番号ですが、住所表記に郵便番号が併記されるのはピンク盤生産期間の中頃ですから、上の通常版のカセットより後ということが分かります。ただ、ピンク盤のようにカセット本体がピンク色というのが泣かせます。またこのカセットのケースは取り出しやすいビデオテープのようなケースに入っていますが、これがカーステ仕様ともいえます。

テープ本体について解説しましょう

 
カセットA.jpg 上のテープにはAMPEXのマークがありますが、こちらにはありません。その他の文字情報は全く一緒といってよいでしょう。目視で比較したところ、AMPEXのロゴ部分以外すべて同じ版を使って作成されていることが分かりました。ただし、テープ本体には相違点がひとつあります。それはテープ残量を確認するための覗き窓がスリット状にしか開いていないことです。これはテープ残量を確認できないカーステならではの仕様ということでしょうか。
 
カセット1.jpg それはともかくもう一度左のケースを良く見てみて下さい。表も裏にもカプリコーン・レコードのロゴがあるのですが、それがなんと山羊さん印のものと同じなのです。山羊さん印というのは1972年にAtlanticからワーナーに移動してからのCAPRICORNのトレードマークなのですが、そこに使われているロゴマークと同じなのです。権利関係が複雑なアメリカですから、その裏側に何があるのか分かりませんが、もしこのロゴが何かの意味を持っているとするならば、それは1972年以降に製造されたもの、と言う意味にも取れます。あくまでも推測ですが。 

テープの表裏反対という驚きの(?)カーステ仕様

 
  いろいろと外観上のチェックして、いざ音出ししようとカセットデッキに挿入したのですが、何と言うことかすぐに止まってしまうのです。早送り・巻き戻しはできるのですが、PLAYボタンを押すと止まってしまいます。それどころかテープが中でたわんでいます。よくよく見ると! テープの表裏が反対です。普通は磁性体が塗られたザラザラの面が裏側なのに、表に出ているのです。これが掛けられなかった理由です。ということは、これこそがカーステ仕様と言う意味なのでしょう。いやはや、このままでは聴くことができません。いずれ手作業で巻き替えることにしましょう。それまで音源についてのコメントはお預けです。

▼2. 次のテープはPolydorレーベルでした…M5N-2-0131 (USA)

1974年、ワーナーからPolygram へ移籍後のテープです

 
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 これまたカタログナンバーと配給元からの判断するまでもなくPolydorのロゴで分かる通り、1970年代後半のテープです。
 曲順はレコード通りに、SIDE1はYou Don't Love Meで終わっています。CAPRICORNバージョンはSIDE2の最後に6分ぐらいのブランクがありましたが、こちらはSIDE1の終わりに4分半ほどのブランクが有ります。流れを重視したCAPRICORNバージョンと、オリジナルに準じたPolydorバージョンと言えなくもないですが、単にこちらはマスターがレコードと同じだけかな? と思えなくも有りません。

ケースは一般的なもの、本体は真っ白けのけ 

カセット.jpg PolydorもCAPRICORNバージョンと同様に、カセット本体にはラベルは貼られておらず、直接刻印されています。だから文字が潰れて老眼の目には読みにくいったら無い! それはともかく、CAPRICORNバージョンのアイボリーとはことなり、こちらはオリンピック・ホワイトというかマッ白けのけです。
 さて、音質の方はどうでしょうか?

ドルビー(TYPE B)の効果が大きいぞ!

 
  実はFillmoreのPolydor盤は音は良くないのですよ。だからもちろん期待なんかしていませんでした。しかしこれまた大きな収穫が有りました。わずか数年の間にドルビーノイズリダクション(B)が常識化し、またテープの磁性体も良くなったのでしょうね。CAPRICORNのテープと比較するとドルビーの効果抜群で、レコードと遜色の無いと言ってはオーバーかもしれませんが、CDよりはよっぽど良い音がします。これはいいなあ。べりー・オークレーのベースもとぐろをちゃんと巻きます(笑)。CAPRICORNのテープとは雲泥の差です。

▼3. 80年代中期、CD時代のPolydorテープです…823 273-4 Y-2 (USA)

1stの証はカタログNo.と何と言ってもAtcoの印

 
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 おそらくこれがカセット・テープで発売されたFillmoreの最後ではないかと思っています。その理由は何かというと、カタログナンバーが823 273-4 Y-2となっているところにあります(あれ?  冒頭のCAPRICORNテープと同じ書き出しになっちゃった)。823 273-4 Y-2というと、1986〜7年あたりに2枚組でPolydor名義で出されたCDト全く同じカタログナンバーなのです。よく見ればラベルの背表紙のロゴも同じ。ということで、おそらく最晩年という判断になったわけです。どうでも良いことですが、バーコードもつけられていますね。

ドルビーも進化しました。HX-PROの刻印が目に入ります

 
カセット.jpg このテープもラベルは貼られておらず、直接にケース本体に刻印がされています。当然ですが、その色や仕様は上のPolydor盤と同様に真っ白です。
 ただし、色々と新たな文字が目に入ってきます。それは何かというとドルビーの当時としてはおそらく一番新しいノイズリダクションシステムのHX-PROの文字です。しかし刻印が潰れて読みにくいこと!

いやあ、これは良い音ですよ!

 
  70〜80年代前半はカセット・テープの時代だと言ってよいでしょう。このFillmoreのカセットを見て(聴いて)いても良くわかります。
 おそらくテープそのものの材質や磁性体、またノイズリダクション・システムも日進月歩で進化していたことでしょう。
 そうなんですよ、このテープの音は良いです。今回このページをまとめるにあたって、連続して試聴したのですが、この音はなかなかに良いです。ピンク盤と直接対決したらまた別でしょうが、テープならではの良い音です。

▼4. これが手持ちの最後…MIPD4-2-9335 (CANADA)

カナダ盤カセットのおそらく最後期かな?

 
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 このテープのカタログナンバーはMIPD4-2-9335となっていますが、カナダ盤のLPの手持ちの中で一番最後のものがMIPD-2-9335です。しかも使用されている写真は、よく見ればMIPD-2-9335と全く同じものですから(右下にcontient 2 recordsの文字が入っています)、おそらくカナダでの最後期のカセットではないかと思っています。
 アナログのMIPD-2-9335盤のレーベルも、いわやるPolydor特有の朱色というか印刷業界でいうキンアカですが、同様にこのテープも要所要所に赤色を多用しています。
 ちなみにジャケット右下に「DOLBY SYSTEM」と表記されていますが、こういう場合には大抵の場合には、TYPE-Bのエンコードという意味になるようです。

カセット本体も真っ赤っかのか!

 
カセット.jpg ほらきた! Polydorでもカナダ盤になったとたんに真っ赤っかのか。いやー、実物はもっと発色が沈み気味ですが、それでも目に痛い赤です。
 なぜか曲順が本来のSIDE1のあとにWhipping Postが続いています。これは例のピンク盤の盤面の順番が、SIDE1の裏がSIDE4/SIDE2の裏が SIDE3、となっているのをそのままに収録したからでしょうか?
 ところがですねー、LPのMIPD-2-9335のレーベルでもミスプリが有ったりで、どうやら現場が混乱していたのではないかと勘ぐってしまいます。普通の人にはどうでも良い話なのですが(笑)。

これまた合格点! というかカセット・テープ侮るなかれ!

 
  このテープも良い音です。良い音というのは何かというと、聴いていて疲れない、ライブらしい広がりが有る、そしてなによりFillmoreに大切なベリー・オークレーのベースがいかに重戦車のようなうなりをあげるか、というのが判断基準です。オーディオ的な音の良さではなく、バンドのグルーブが出るかどうかです。そしてこのテープも合格点。というか、テープで良いじゃない。CDってどうよ、と言いたくなってしまいました。

※カセット・テープのまとめのようなもの

カセット・テープはLPとは反対に、時代が下るほどに良い音になって行くのが面白いですね。見つけたらまた買おうっと(笑)。

 カセット・テープをこんなに集中して聴いたのことは無かったです。ホームページを作ったおかげというか、成果の一つになると思えるほど、充実しましたねえ。
 まあ、知識のある人なら当然のことなのですが、1971年から1987年あたりまでに製作されたミュージック・テープを、時系列に沿って同一音源で比較試聴するなんてことをしてみない限り、実感として見えてこないことが有るのは事実でしょう。
 特に圧巻だったのは、ドルビー・ノイズリダクションシステムの発展の仕方ですね。アナログLP盤では、ジェネレーションが一つでも若い方が音に鮮度が有るので、血道になってレコハンを続けているのですが、ことカセット・テープに限っては、時代が下がるほどにぐんぐんと音質が良くなって行くんですよね。まずテープヒスノイズがグンと減る。それから低域に力が出る。あんなに細い(3.81mm)テープ幅で、あんなに遅い(4.75cm/秒)スピードで、こんなに生き生きとした音がするなんて! なんてちょっと感動してしまいました。テープ世代には何とも嬉しい再発見でした。

 さて、今回のテープに限って、単純に図式にするとこうなります。

 ノーマル<ドルビーB<ドルビーHX-PRO

 いやあ、びっくりした。つまり現代に近づくほどに音が良くなっているんです。こういうのを技術革新というのですね。まあ、たまたまそう言うのが分かりやすい音源に出会っただけかもしれません。他のテープではそうではないかもしれません。だけど、今回の比較試聴では確実にそうでした。
 
 もう一つ気になったのは、マスターはどうなっているの? ということです。一番最初のCAPRICORNのテープに限ってですが、1曲目STATESBORO BLUESの後にTROUBLE NO MOREのイントロが続いているのですが、ということは、このマスターはLP(ピンク盤)とは違うということになりますよね。テープに関してはLPとは製作する工場が違うから、同時進行で製作しなければならないので、別にマスターをこしらえたのでしょうか。想像の域を出ませんが、詳しい方には教えを請いたいです。

 というわけで、こりゃちょっとカセットのミュージック・テープは侮れないなあ、と言う結論となりました。