P-5016/17

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日本国内・初盤について紹介しましょう

1st…Warner Pioneer P-5016/17A (1971) 今から約40年ほど前、すべてはここから始まりました。

ツイン・リード、一曲が長い、2枚組で高い…でも死ぬほどかっこいい!

 70年初頭というのは、ブリティッシュ・ロック全盛期でした。当時人気だったツェッペリンもディープ・パープルもELPもキングクリムゾンもピンクフロイドもT-Rexもスレイドもデビッド・ボウイも、ロックらしいロックはみんなイギリスでした。
 反対に当時のアメリカはと言うとBS&Tやシカゴ、チェイスに代表されるブラス・ロック、サンタナのラテン・ロック、そしてエレクトリック・マイルスやマハビシュヌ・オーケストラ等かなりジャズ要素が高いバンドが、フィルモアあたりを席巻していました。

 自分はどちらも好きでしたが、ブリティッシュならプログレ、アメリカンならジャズの要素が多く含まれたバンドを好んで聴いていました。そんな時に当時既に有名盤だったこの『フィルモア・イースト・ライブ』を手にしたのは、当然すぎるぐらい当然な流れでした。当時からサザン・ロック、ブルース・ロックというカテゴリーで語られていたオールマンでしたが、初めて聴いた時に感じたのは、従来のそういったジャンル区分とは全く違った、緻密なアンサンブルとジャズのテイストでした。以来オールマンといえば『フィルモア』です。

モノトーンで黒つぶれ、それが男の世界を強調していました

  
P-5016_17A.jpg▲ディッキーの足下にはAtlanticのロゴマーク


P-5016の裏.jpg▲右下隅に「¥3,000」という定価表示

 ピンク盤の1stにたどり着くまでは、ジャケットに関しても音質に関しても、良くも悪くもこのアルバムが基準でした。
 ジャケットはモノクロ写真で表も裏も黒つぶれで真っ黒けのケ、という写真でしかも裏はバンドメンバーとは関係ないローディが、これまた普通のアルバムでは考えられないほどの大きさで載っていました。そんな何の化粧気も無い、男臭いアルバム・デザインですが、カラフルなLPレコード棚の中に混ざると、余計に目立つから不思議です。

 音質は当時からお世辞にも良いとは思えませんでした。例の『Layla』も同じですが、国内盤だからそうなのか、もともとそうなのかを当時は知る由もありませんでした。しかしそんなことは少し聴き始めたらどうでも良いことでした。当時ツイン・リードといえばウイッシュボーン・アッシュ(笑)。しかしオールマンのツイン・リードはウイッシュボーン・アッシュとアプローチが全く違い、デュアンとディッキーがくんずほぐれつ、上になったり下になったり。あとから思えば、音がこもっていたから余計に聴き取りにくかったのですが。

1・ジャケット写真のトリミングサイズ


 国内盤がどのようにオリジナルとトリミングの違いがあるか比較してみましょう。赤枠で囲った分が国内盤です。

トリミングサイズ表.jpgトリミングサイズ裏.jpg

 かなりトリミングで削られた部分が多いことが分かりますね。それと写真がすごく黒つぶれしています。この傾向はLPでは最後まで変わりません。

2・レーベルのロゴマーク


P-5016のロゴ.jpg 国内盤のジャケット・下部中央、ディッキーの足下、オリジナルなら「CAPRICORN」のロゴがある部分に、アトランティックでおなじみの「ステレオ・ブラックファン・ロゴ」があります。
 またオリジナル・ジャケットの裏面・下部中央にあった「CAPRICORN」のロゴは消されています。というか、写真そのもののトリミングで削られています。左の写真でも分かりますね。

3・センターレーベル


P-5016のラベル.jpg この国内初盤は1971年の発売ですが、そのセンターレーベルは「レッド&グリーン」となります。
 ワーナーブラザーズ・パイオニアは70年11月に設立され71年1月にアトランティック・レーベル配給を開始しました。

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 こちらはプロモ盤(ここではレーベル面に見本盤と印刷されています)です。たいていプロモ盤は白レーベルが多いのですが、全面ブルーのレーベルとなっています。これがフィルモアだけなのか、はたまた当時のWarner PioneerのAtlanticが全部そうだったのかは分かりません。

4・ジャケットの内側…あれは書いてあるんだけど

ピンク盤内側2.jpg米初盤 SD2-802

P-5016のジャケ内側見開き.JPG国内初盤 P-5016〜17A

アルバムクレジット1.jpgクレジット拡大.jpg

 ジャケット内側・右端の曲目等の解説部分は、ほとんど米国初版のピンク盤と同じ内容が記載されています(左側がピンク盤、右側が国内初盤)。
 まず第一の、というか一番のチェックポイントは、"In this two record set Side One is backed with Side Four and Side Two is backed with Side Three." つまり「1面は4面の裏側、2面は3面の裏側になっています」という但し書きが書かれているかどうか、ということです。
 そしてまったく同じ文章が同じ場所に書かれているのですが、実際の盤面はというとレコード1=Side1/Side2 レコード2=Side3/Side4になっています。言うまでもなく米盤オリジナルはレコード1=Side1/Side4 レコード2=Side2/Side3です。急いで発売しなければいけなかったから文章の細かい内容まではチェックをしなかったのか、はたまたあんまり気にしていなかったのかは分かりません。

 もうひとつの相違点は当然なのですが、ピンク盤の方では一番下に書かれていた"Capricorn Records distributed by ATCO Records, division of Atlantic Recording Corp. 1841 Broadway New York, N.Y.,1971 Atlantic Recording Corp. Printed in U.S.A."が、国内の発売元WARNER BROS. PIONEER CORPORATIONに差し替えられています。

5・日本ならでは、ライナーノートのお話


 ライナーノートの末尾には「1971年8月 木崎義二」とあります。まだデュアンが生きている時に書かれたもので、もちろん日本盤の最初のライナーノートです。木崎氏と言えば数々のビートルズのシングル盤の解説でおなじみで、1966年のビートルズ日本公演のパンフレットにも寄稿されている“洋楽の生き証人・生き字引”とも言える伝説の音楽評論家です。僕もラジオ番組でお声を聞いた記憶があります。
 なんですが…。アメリカでもアルバムデビューして日が浅いせいか、ちょっと演奏についての解説が…。もちろんこれは自分のあくまでも私感です。あくまで。アメリカで71年6月に発売、日本ではその3ヶ月後に発売では、そりゃ大変だったことでしょうからね。当時よくあった話ではあります。

6・音質評価です


 良くも悪くもこれが個人的には原点のFillmoreなので、客観的な評価対象とはなり得ません。黒つぶれのジャケット、写真らしい写真の無いインナージャケットと、ライブ感はあるけれどなんとなくもやっとしている音が僕らのFillmoreであり、それ以上でも以下でもない存在でした。それでもどう転んでも音が良いとは言えなかった国内初盤のLaylaと比べたら、まだマシといえるのではないかと思うのですが…。
 だからこそ、初めて購入してから20年以上経ってオリジナルに針を落としたときの驚きは無かったわけで、例えばリアルタイムにたまたま偶然買った輸入盤がオリジナルであったようなアルバムは、反対にそれほどの関心も興味も強くは湧かないのだから、それはそれで面白いものだと思うわけです。