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PINK盤・各PROMOTION盤について紹介しましょう!

C、CC-Re、CCCのステレオ3種類と希少なモノラルがありました。

ここから集めていれば、割と簡単に色々分かったのですが、それだと面白くない現実も有ります。

 最初、Fillmoreの深い森に迷い込んだときは、本当に足がかりになるものが何も無く、とりあえず今まで手に入れたことの無いものに遭遇したら、とりあえず入手していました。目的は「源流を求めて」なのですから、最初からプロモ盤に目をつければ良かったんです。何たってプロモ盤は市販される前の販促商材として関係各位に配布されるわけですから、商品として流通する前の初期ロットな訳で、マトリクスのジェネレーションも大抵はスタートになる一番最初のものなんですが、それに気づくまでに随分と時間が掛かってしまいました。というのも、おいそれと転がっていないんですよね。
 一番最初に手に入れたプロモ盤は「PRのC」でした。PRとはもちろんPresswell Recordsですね。ま、これでAもBもなくCからスタートということが確認できたわけで、そう言う意味ではプロモ盤というのはマトリクスの検証には非常に有り難い存在であります。しかも音が良い。あたりまえですよね、ジェネレーションが一番若いのですから。

 さらにピンク盤の場合には、発売時にヨーイドンで3工場(Presswell Recording、Monarch Recording、Philips Recording)で製作されたので、3種類のプロモ盤が存在することは想像に難くないです。おそらく一番たくさんプレスされたであろうPR盤は、プロモ盤も多く比較的入手しやすいのですが、MOとRI、とりわけRIのプロモ盤にたどり着くまでに時間がかかりました。まあもともとプレスされた枚数も多いレコードですから、マメに探せば見つかるので、いつかは手に入るだろうと高をくくっていました。
 しかし厄介な存在も有るのです。それがモノラルのプロモ盤。これは正規には発売されない、正真正銘のプロモーションのためだけに作成されたものです。しかも配布対象の幅がおそらくモノラル放送のAMラジオ局ぐらいしか考えられないので、多分ですがプレス枚数も少ないことでしょう。これは未だ未入手ですが、有り難いことにお持ちの方からお借りすることができましたので、サンプル調査としてここに報告させて頂きます。

1…PR(Presswell Records - Ancora, New Jersey )のC すべてのスタートがここです

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 ピンク盤の源流をさかのぼるとここにたどり着きます。もちろん強者はさらに遡り、禁断のテスト盤や踏み入れてはいけないマスターテープの世界も有るのですが、そこまではいきません。この辺で止めておくのが健全というものです。
 ジャケットにATLANTICのプロモ盤でおなじみの黄/黒のシールが貼ってある意外は通常のジャケットそのままです。ちなみに上部の白いシールはプロモ盤とは関係ありません。
 レーベルもプロモ盤ではおなじみの白レーベル。左・中央には「SAMPLE COPY NOT FOR SALE」の印字があります。マトリクスは当然ですが、すべてST-CAP-71223X-Cです。

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2…MO(Monarch Records - Los Angeles, California )のCC-Re

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 ジャケットに貼られたシールはPR盤と全く同じで、黄/黒の「PROMOTIONAL D/J COPY」と書かれたもの。しかし貼る位置がみんなバラバラですね。さすがアメリカ、几帳面な日本人とは違う。
 レーベルはPR盤と全く同じ白レーベル。ただし「SAMPLE COPY NOT FOR SALE」の印字はPRとは反対に右・中央にあります。文字の書体も太めで大きくくっきりしています。肝心のマトリクスはすべてST-CAP-71223X-CC-Reです。だからMO盤のスタートがCCではないことが確定しまた次第です。
 音はやっぱりちょっとPRよりも甘いというか、ダルというか、比較しなければこれで十分ですが、比較するとそういう差がどうしても出てしまいます。

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3…RI (Philips Recording Co., Richmond, IN)のCCC うーん、やっぱり個人的にはベストだなあ…

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 RIのプロモ盤は上記の二つに反して色々と相違点が有ります。まずジャケットのプロモを表示するシールが2種類です。黄/黒は三つとも同じですが、RIにしかない(のかどうかサンプルが少ないので分かりませんが)のは丸くてオレンジ色の「Promotional Copy NOT FOR SALE」と書かれたものです。
 それからレーベルが白レーベルではなく通常のピンク盤のものを流用しています。プロモ盤を示す表記もレーベル中央・右、ただしMO盤とは異なり、盤名表示の「ONE」の上の位置に異なる書体で
「PROMOTIONAL COPY NOT FOR SALE」と示す印字があります。細かいことですが、PRやMOは「PROMOTION」、RIは「RROMOTIONAL」と形容詞になっています。当然ですがマトリクスはすべてST-CAP-711222X-CCCです。

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 さて音ですが、レギュラーのCCCのこくをグッと濃くした感じで、やはりお気に入りです。好きなものは仕方ない、ということでMy Bestです。

これは貴重 ! promotional d/j copy monaural …いわゆるモノラル・プロモです(2-802 / CAP-13687〜90 PR)

なかなか現物を拝むことができませんでしたが、ようやく手にすることができました。ただし借り物でしたが(笑)。

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 もちろん今までに何度となくeBayで見掛けては、そのたびに後何秒かでセリ負けてきました。自分のオークション歴で一番の金額を張ってきたけど、まだ未入手の一枚です。一番最近オークションで出たのは8万で落とされました。そこまでの金額を出す気はなかったので早々と降りましたが。
 そんな垂涎の一枚がモノラルのプロモ盤です。ここで紹介するのは、このBBSを通じてご連絡を頂いた東京・永見さんの所有物をお貸しして頂いたものです。貴重なものを本当にありがとうございました。本来、右の写真のようにモノラルのシールが貼られているのですが、入手された時点では剥がされていたようです。ではじっくり見て行きましょう。

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1・この個体ゆえのジャケットの特徴


 基本的にはプロモ盤のジャケットは通常のジャケットにシールを貼っただけで、モノラルのプロモ盤に関しても同じですが、この個体はシールが剥がされていますので、ちょっと見ただけでは通常盤と見分けがつきません。
 しかし裏返すと曲目のクレジットの部分に面白い書き込みが有ります。左の写真を見てもらっても分かる通り、チェックを付けられている曲、マジックで塗りつぶされた曲があります。
 よくよく見れば「Stormy Monday」「You Don't Love Me」「In Memory Of Elizabeth Reed」「Whippin' Post」という長尺の曲が消されていますね。つまりラジオで掛けても大丈夫な短い曲だけが残されています。まさにラジオ局で使用されたか、使用されるように用意されたものだということが分かります。下に紹介しましたが、盤面のレーベルにも同様の書き込みが有ります。こういう書き込みが具体的になされているプロモ盤というのも、あまり見掛けませんね。

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2・レーベルとrun-offのマトリクスを見てみましょう

DISC-1

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IMG_3907.JPGCAP-13687-A

IMG_3910.JPGCAP-13688-A

DISC-2

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IMG_3915.JPGCAP-13689-A(90と書きかけて書き直し)

IMG_3921.JPGCAP-13690-A(89と書きかけて書き直し)

 音質の評価は最後に回すとして、見た目の話をしましよう。まず真っ先に目がいくのがレーベル上・中央のカタログナンバーです。「2-802」とありますが、これは通常盤の「SD2-802」から単純に「SD」を削っただけですね。ちなみにATLANTICでは当初よりモノラル番はナンバーのみ、ステレオ盤にはSD(Stereo Disc?)が付くというルールなので、それに則っているわけですね。しかし本当に削っただけなので空いたスペースはそのままになっています。プレス工場は各盤面の原盤番号とrun-offのマトリクス刻印は以下の通りです。

DISC1・表(ONE) CAP-13687 PR (CAP-13687 手書き)
DISC1・裏(FOUR) CAP-13688 PR  (CAP-13688 手書き)
DISC2・表(TWO) CAP-13689 PR (CAP-13689 手書き)
DISC2・裏(THREE) CAP-13690 PR (CAP-13690 手書き)

 なのでプレス工場はPresswell Records., Ancora, NJですね。

IMG_3909.JPG 誰がカッティングしていたかということも、run-offの部分に刻まれています。
 良く見ると左の写真のように「AT/DK」という手書きの刻印が有りました。「AT」はATLANTICであることは簡単に分かりますね。続く「DK」は有名なATLANTICのカッティング・エンジニア、Dennis Kingの頭文字です。

 ということで、Dennis Kingの手でカッティングされ、Presswell Recordsでプレスされたわけですから、音も期待が寄せられますが、音源そのものはひょっとして単純にステレオをモノラル・ミックスしただけかもしれません。久々にわくわくして針を落としました。

3・この話、ネットも書籍にもどこにも出ていない話ですよ!


 自分がいつもチェックをするときは「You Don't Love Me」に針を落とすんですね。でもそれは音質のチェックをするときの話。デュアンのボリュームによるギターの音色の変化とか、バスドラの響き方とか、オーディエンスの歓声や拍手の聴こえ方とか、イントロにはチェックすべきポイントが満載だからです。でも今回はそもそものミックスがステレオ音源をモノ・ミックスしたものなのか、一からモノラル盤としてミックスされたものなのかが一番の関心事でした。ですから、とりあえず頭の一曲目の「Statesboro Blues」から聴いたわけです。音質評価は次に述べるとして、のっけから大発見! あれえ? いつもとちょっと違うぞ、となったわけです。

 大体、At Fillmoreのモノラル・プロモについて触れられているHPなんてどこにもないし、もちろん活字になったものもありません。まあ話題にさえならないと言っていいかもしれません。最近はなんだかモノラル・プロモが中古市場でにぎわっているものの、普通の人間が手が出せる金額では有りません。ですが、今回は永見さんという強い見方が現れたおかげで、微に入り細に入りチェックすることができました。本当に有り難いです。

 話を戻します。何が大発見だったかというと、いつもなら♪ジャジャ〜ンで終わった後拍手がフェイドアウトして終わる「Statesboro Blues」なのに、続いて♪ドンタカ、ドンタカ、とドラムが始まるではないですか。そうです、「Trouble No More」のイントロです。でも2小節ぐらいでフェイドアウトです。でもこれではっきりしました。このモノラル・プロモ盤はまぎれもなくオリジナル・ミックスです。長年の謎と言うか疑問が取れた瞬間でした。

 やれやれ、たった一枚のアルバムなのに長い長い道のりでした。

6・音質評価です


 今時の人にはモノラルと言われてもピンと来ませんよね。オーディオ的に詳しく説明するとモノラルの前にモノフォニックの話をしなければならないのですが、日が暮れるので簡単に説明すると、ステレオが左右のスピーカーで再生することが前提としたら、モノラルはひとつのスピーカーから再生すること前提の音源のことを言います。
 1960年代初頭ぐらいまではレコードはモノラルがスタンダードで、その後ステレオがそれに取って代わりました。で、日常生活で言うとAMラジオ放送はモノラルで、FM放送はステレオでした。テレビも昔はモノラルが当り前で、今ではステレオが当り前ですね。

 何を長々と書いているかというと、だからといってAMの音が悪いわけでもモノラルの音が悪いわけでもなくて、ステレオとは種類が違うと言いたいわけです。ステレオ盤の物差しでモノラル盤を評価はできません。それぞれの良さが有るわけです。そして自分は実はモノラル派なのです。だからモノラルというものに愛着が有るので、普通の人とちょっと物差しが違うかもしれません。

 が、あえて今回のモノラル・プロモを評価すると、なかなか良いんですね。試しにPRのプロモ盤をモノラル再生して比較したのですが、全然音作りが違います。どうしても情報量はステレオ盤よりも少ないです。しかし、一番大切なボーカルとかソロ楽器、そして何よりベースがグッと来ます。あまり大掛かりな装置で聴かない方が良いかもしれません。
 音を言葉で表現するのは難しいですね。しかも大定番のAt Fillmoreのモノラル・バージョンですから多少のバイアスが掛かって聴こえているかもしれません。今時のワイドレンジでドンシャリの音になれた耳には、一聴して派手さはないし、なかなか評価が難しいですが、何度も聴くとジワーっと来ます。渋いレコードです。

(2015年10月30日)