t.m.p Guitarsの特徴あれこれ…
ちょっと見じゃ分からないその秘密ご紹介致します
ギターを外見やブランドで判断する人には全く興味のない話かもしれませんが、楽器なんだから出音が全てでしょ、とか、ライブで他の楽器に音が埋もれないようにするの大変なんだよなあ、とか日頃思っている人には、色々ヒントになるのではないかということで、t.m.pのギターの色んな特徴をまとめてみました。
オリジナル・ギターの場合には、燻煙処理、サークル・フレッティング、スロープ・ヘッドが基本的な3大特徴ですが、チューンナップでは依頼内容によってそれらの他に設定変更というか設定そのものの修正・見直しが入りました。ネックホポケットやネックの仕込み角、ピックアップのザグリ、ペグポストの修正がその主なものです。そのあたりは毎回ケース・バイ・ケースでもちろんしてほしくても、元々のギターの状態によってはできないものありました。
その他目に見えない部分でのパーツ変更も多々ありました。スイッチ、ポットの類いはもとより、配線材もフラット・ケーブルをクライオ処理(低温処理)したものをその都度製作して使用したり、狙ったサウンドによってサドルの材質を交換したりとか、細かな目に見えない部分のパーツ交換も凄く多かったです。。
あと、知られているかどうか分かりませんが、基本的にt.m.pのギターのゲージは0.011〜のセットがデフォルトで、細くてもせいぜい0.010〜でした。張力設定が正しければ0.011〜のセットでも全然弾きにくくない、という松下さんの言う通りでしたが、それ以上に音の抜けが凄く良いです。これだけはバンド・アンサンブルをしてみないと実感が湧かないと思います。いずれにせよ、演奏ありきの設計・設定変更・修正が松下さんのスタンスでした。
特徴1…燻煙処理
t.m.pといえばまず第一は燻煙処理ですね。松下さんのホームページによれば「t.m.pに於ける燻煙処理は25年間程の試行錯誤の結果、木材のセルロースを燻煙処理で硬化させることで素材の強度を20から30%アップと安定化が得られる手法として独自に研究した木材乾燥及び安定化手法」とあります。
t.m.pの工房で燻煙した原木を見せてもらったことかありますが、抹茶色になっていましたが、チューンしてもらう場合にもボディやネックをばらして燻煙します。塗装していて効果があるのか、と言う疑問があるかもしれませんが、確実に効果はあると思います。まあこういうのは使用前・使用後の比較ができないと実感できないので、これ以上言葉による説明はやめますが、とにかく捩じれたり動いたりということから無縁になるのは、湿度の高い日本では精神衛生上すこぶる嬉しいです(これまでどれだけの手持ちのギターが歪んだか…)。
ただ唯一の難点は、燻煙の結果しばらく燻されたような匂いが抜けないことです。馴れるとt.m.pのギターだ、という実感が持てていいんですが、普通の人にはただの焦げ臭い匂いに思えるかもしれません。もちろん使っているうちに抜けますけどね。
特徴2…サークルフレッティング(CF)
燻煙処理とならぶt.m.pのギターを代表する特徴といえば、何と言ってもサークルフレッティングですね。
これまた松下さんのホームページによれば「定点を中心として各フレッティング・ピッチで円弧状にフレット溝加工されたものです。またこの指板への溝加工は現在ではNCルーターと呼ばれる数値入力で稼働できる木工及び金属樹脂加工マシンに0.6ミリほどの細い溝加工用の刃物を取り付けて、ひとつひとつ円弧Rが異なり、更に指板上面のRも異なる3次元加工を施すことでCF指板製作が可能になっております。注:現在は国内パテントをF社さんに譲渡致しましたのでワタクシは考案者であっても勝手にCF指板の製作は行えません。USAパテントは未だにワタクシがパテントホルダーです」とのことです。F社がどこかはギター弾きなら周知の事実ですね。
これはF社のギターで使用されている人なら分かると思いますが、とにかくピッチが良いです。そのための加工技術ですから当り前ですよね。ただしデタッチャブル・ネックでしかこの加工ができないので(松下さんによればやってやれなくはないけど、費用を考えると現実的でないとのこと)、その恩恵はFenderタイプのギターでしか受けられないのが残念です。実際にCFのギターばかりここ何年も弾いてきて、最近になって手に入れたレスポールを弾いたときの衝撃と来たら…。馴れればなんとかなるのでしょうが、12フレット以上でコードを弾いたときのピッチの…。これ以上はレスポールの名誉のために書きません。
しかしどうしてこういうことが業界のデファクト・スタンダードにならないのでしょうね。不思議です。
特徴3…スロープ・ヘッド
これまたt.m.pギターの大きな特徴のひとつです。これが何かと言うと、ストラトやテレキャスなどの片側6連ペグ形状のヘッドに、微妙な角度をつけることで弦に適切な張力設定ができる、というようなことです。残念ながらこちらは門外漢なのでうまく説明できないのですが、外観上の特徴としてテンションを与えるためのストリング・ガイドが無いと言うことが上げられます。
上の写真(左)はうちのストラトに付けられたスロープヘッドの試作ネックなのですが、クリックして拡大してもらうと、その角度を付けた部分が分かると思います。写真(右)はCCRのヘッドです。
t.m.pのギターは色々な工夫と言うか設定が施されているので、どれが何に効いているのか良くわからないのですが(笑)、とにかく他のギターとは弦のテンションが確実に違います。したがって通常ではあまり使われない0.011〜0.048というゲージのセットを標準にできます。この1弦の張りが有って芯がしっかりした音色は、こういった設定ゆえだと思います。松下さんいわく「細い弦が固く感じられるのは設定の問題だから、それを修正すればいい」とのことですが、それがなかなかねえ…。
特徴4…ローカット・ボリューム(LCV)
これもどうして今までなかったのかと思う機能ですが、ローカットボリューム、言葉を変えればハイパス・フィルターになるのでしょうか、厳密にはどうかわかりませんが、ボリュームを絞ると高域はそのままに低域だけが減衰して行くようになっています。
ちなみに上・右の写真は自分のLPの設定です(あとから聞いたらこれがデフォルトだそうです)。ピックアップ側でシングル/ハムの切り替えを機械的にするよりも、線も細くならず芯のある音がするので、自分の場合にはトーンコントロール代わりにLCVを使うことが多いです。もちろんハムでもバッキングはキレキレになります。
ちなみに最初はストラトのシングルコイルには必要ないだろうと思い、CCRやTERESA(これはトーンを外してLCVに交換)にだけLCVを仕込んだのですが、その使い勝手の良さからストラトもマスター・ボリューム/LCV/マスター・トーンという組み合わせに変更しました。けっきょく全部のギターにLCVを組み込みました。
特徴5…オリジナル・パーツ
t.m.pのギターはオリジナル・モデルもチューンナップされたものも、オリジナルのパーツが色々と使われます。ある程度まとめた数を発注するものもあれば、既成のパーツを加工したものもあるそうですが、手許の例えばCCRとTERESAは似たようなパーツ構成ですが、よくよく見るとそれぞれに合わせたパーツが使われています。
上の写真はCCR(左)とTERESA(右)のブリッジ・プレートですが、厚みが微妙に違うことが分かるでしょうか。以前聞いた話では4種類あるそうです。さらに長さも個体に合わせて加工・調整するそうです。もちろんこれだけではなく、サドルも設定する音色の傾向によってスティールとブラスを使い分けします。
特徴6…水牛の角のナット/ブリッジ
当初はt.m.pのギターもずっと牛骨のナットとブリッジを採用してきましたが、何年か前から水牛の角に変わりました。最終的にはこれがデフォルトの素材になりました。なかなか加工が大変だそうなのですが、これまた交換したら音のメリハリと言うか抜けが良いので、これまたけっきょくほとんどのギターで交換することになりました。
アコギのブリッジはこれにオクターブ・サドル加工がされているので、チューニングもバッチリ合うし、バリっとした音になります。こういうのは素材だけの話なので、探せばやってもらえるところがあるとは思うのですが、どうなんでしょうか。