My t.m.p Guitars…
愛すべきギターたちをご紹介致します
50歳を迎えた時に、ひょんなことからバンド活動を再開しました。社会人となりバンド活動から離れて実に28年ぶりのことでした。もともと大した腕ではありませんでしたが、それ以上に錆び付いていたのはギターたちでした。
ということでどうせやるなら道具から、と考えるのがこの年代の悪い癖。それに今までさんざん市販のギターでは泣かされてきたということもあり、ここは一発オーダーしてみるかという気になったのは、実はt.m.pというギター工房を主催する松下さんの存在を知ったからでした。
ひょんなことから松下さんのホームページを見ていて、これだ! と閃いたのには何の根拠もありません。ただの直感です。でもその直感が大当たりで、今までのギターは何だったのかと思うほどしっくり来るギターだったのです。
ただ、残念なことにというか、ご本人はすでに何年も前からギター製作の期限を切られていました。くしくも今年(2016年)の4月がその時となりました。それを記念してというわけではありませんが、2010年にご縁を頂いてから自分の手許に集まったt.m.pのオリジナル・オーダー・ギターや元々持っていた自分が持っていたギターをチューンして頂いたもの、また市販品を松下さんがチューンされたものを、一度整理してご紹介してみようと思った次第です。
したがってそのインプレッションは、極めて私個人の今までの音楽生活やその他諸々をベースにしたものであることを最初にお断りしておきます。とはいっても、もう製造されるものではないですし、あくまでもプレーヤー対象でコレクター向けに作られたギターではないですから、安心してその感想を書けるんですけどね(笑)。
t.m.p作成/チューニングの特徴は…こちらへ
Fender Stratocaster…多分74年製、以来42年の付き合い
このギターは1974年に買った(買ってもらったというべきか)ものです。生まれて初めてのエレキギターがFenderとはなんて贅沢な、という感想を持たれるかもしれませんが、手許に来るまでの経緯を書くと色々あって長くなるので省きます。ただ本当に扱いに苦労したギターで、実は50歳でバンドを再開するまでほぼこのギターだけでやってきましたから、愛憎相半ばというか腐れ縁というか。
ところでCCRですっかり松下さんの作るギターに参ってしまったので、このストラトもチューンナップしてもらったらどうなるだろうか、と考えるが早いかメールを出して問い合わせてみたところ、その時代の設定そのものが間違っている可能性が高いから、根本的な修正が必要になるという答えが返ってきました。そのかわりオリジナル性は無くなるが格段に鳴るようになるよ、と言う話です。扱いにほとほと困っていたギターでしたので、全面的にお任せしました。
例によっての燻煙、ネックも3点留めから4点留めに変更はもちろんですが、松下さんの真骨頂は設定の変更です。詳しいことはわかりませんが、こういうギターなら設定はこうでなくてはいけない、と言うのがあるそうです。自分が持ち込んだギターの大半はペグポストの位置がたいてい間違っていました。
たとえばこのギターの場合、これだけ設定がずれていたわけです。結局のところ後にt.m.p.オリジナルのネックに交換したのですが、これで激変します。これがあのギターか? と思うほど鳴ります。松下さんは「こんなのは弦の張力計算がちゃんとできていたら正しい位置が分かるはず」といわれますが門外漢には何のことやら。今まで0.01を張ったら固くて弾けたものじゃなかったのに、今では0.011〜0.048を張っても普通に弾けます。
そのほか書ききれないほど色々あるのですが、こんな話はオーナーにしか分からないからこれでやめますが、とにかくこの経験のおかげで、吊るしでギターを買っても全然その実力は発揮されていない、ということを痛いほど知ったのです。
Gibson Firebird 1976…米建国200年モデル
ネック折れの修理歴があるとはいえ、かなり安い値段で出ていたので、かなり迷った末に自分自身初めてのGibsonギターとして購入した一本です。とにかくミディアムスケールとかセットネックとかハムバッカーとかいったGibson特有の仕様が苦手というか嫌いで、ほとんどその手のギターには見向きもしなかったのですが、ミニハムだったこととやっぱり見た目の格好良さには勝てませんね。上のストラトで松下さんのチューンの凄さを実感していたので、この個体もいずれはチューンしてもらうつもりでいました。
さてこのFirebird、t.m.pに送り届けるなり、ネックが下方向に曲がっている、という連絡が入りました。Firebirdのペグはバンジョーペグなので、普通のペグの3倍ぐらいの重さがあるのですが、それに加えてヘッドのでかいこと。それらがネックに負担を与えて重力にあらがえず、大抵のFirebirdではネックが下に曲がるという症状が出るそうです。試奏しても気にならなかったし、音も悪くなかったんですが、そう言われると気になります。でも一度下方向に曲がったネックは戻らないけれど、ブリッジの位置変更で何とかなるとのこと。
ほんのわずかですが、位置変更の様子が分かるでしょうか。
これまたチューニングの効果は抜群で、もともと気に入っていたミニハムのサウンドが「えっ?」というほど変わりました。以来ライブでは随分活躍してもらって、自分のトレードマークのようになっていた時期もありました。ブルースロック系にはバッチリの音色で見た目もロックですね。
ただこのギターはボリュームが遠いですね。ボリュームペダルを使え、と言う話もありますが、ストラト歴が長いのでボリュームは手でコントロールする癖がある自分にはペダルは苦手です。
Gibson Les Paul Standard…90年代後半?
手持ちのギターの中で一番新しいもの。レスポールなんて高いだけでネックは折れやすいし、だいたいハムバッカーは云々…と今までずっと避けてきたギターの筆頭のレスポールですが、食わず嫌いもいかがなものかということで、かといって今時の高いものには手が出るはずもなく、t.m.p仕様にチューニングしてもらうことを前提に、ひたすら安くて程度の良いのを中古で探してみつけました。
でも例によってペグポストの位置は間違っていました(そうです)。別の設定仕様のガイドでも使って穴開けしたんだろうという松下さんの話ですが、鳴らせば音は出るしピッチが狂っているわけでもないから、設定間違いは出荷検査でもみつからないのでしょうね。
つい最近(2016年4月)に行ったライブでこのレスポールを持ち出したのですが、その時たまたまそのライブハウスに来ていたレコーディング・エンジニアの人が、別にこちらから話しかけたわけでもないのに「ストラトやテレキャスはそうでもないんだけど、レスポールは良い音するのって本当にないんだよね」と言うのです。「でも今日は久しぶりに良い音がするレスポールを聴いた」と言うんです。腕は褒められないけど、音は褒められるといういつものパターンです(泣)。
松下さんがギターの製作やチューニングをやめてしまわれた今、こういう根本的な設計段階での間違いの修正をしてくれる人は他にいるのでしょうか。こういう経験を繰り返しているので、本当に困ったなあというのが今の実感です。
しかし残念なのは、立派な素材やパーツを使っていることは素人の自分にもある程度分かっても、正しい設定がなされて作られているかどうかは、こうやって実際にその違いを体験した自分でさえ分からないことです。自分のギター遍歴もこのLPが最後になりそうです。